2008年06月12日

キャッチャー・イン・ザ・ライク

絶望文学集 〜キャッチャー・イン・ザ・ライク〜

 こんなインチキな話は人生長しといえども、そうそうしょっちゅう聞けるものじゃない。もし君がサンデー編集部を知っていたら、君だってやっぱり僕と同じように訴訟を起こしていたと思う。だってあいつらときたらどいつもこいつも仕事をしないんだ。いや、まじめな話。そりゃいまにして思えば、最初の担当や二代目の担当はちゃんとやってたと思うよ。言いたいことはあるけれど、初代と二代目はほかのとんちきな連中に比べればまだいいやつらだった。

 僕が参っちゃうのは、三代目の担当が平気で遅刻をするってことさ。これってあんまりじゃないか。女の子がデートの待ち合わせに遅れるっていうなら、ましてやその女の子が目が覚めるようなルックスだったら、僕だって文句は言わないよ。「私、遅れなかった?」って聞かれても「ぜんぜん」と答えるだろうね。でもさ、漫画家と編集者の関係っていうのかな、それってデートとは違うじゃないか。担当が決めた締め切りギリギリにカラー原稿を仕上げたっていうのにだよ、それを取りに来ないってのはおかしな話で、しかも「いつでもいいだろ」ときたもんさ。もうびっくりだね。そういう態度ってないだろうよ。ほんとに冗談抜きで。

 四代目の担当に至っては、相手の手の指を四十本くらいぼきぼきと折ってしまわないような握手じゃないと女々しいと考えるような、よくいるタイプの一人だった。やつは担当替えの当日から僕にガンをつけてくるんだよ。そういうことをされると滅入るよね。
「なぜ、替わる担当替わる担当、喧嘩を売ってくる必要があるのだ?」と僕は尋ねた。するとこの手のやつらは、ヘラヘラしてこう言わなくちゃいけない決まりになってるんだ。「僕は編集部の中でも怖い編集といわれていてね」とか「僕はKと仲がよくってね」とか。自分たちがどれくらい漫画家を馬鹿にしてる人間かをわからせるようにさ。そういうのってまぁ、逆にこっちが笑っちまえることではあるんだけどさ。

 とにかく僕はこの四代目担当者と一緒に仕事をしてきたんだけど、この男のひどいところは、僕に自宅のFAX番号を教えないってことだ。きっと君にだって教えないはずだ。聞けば「自宅のFAXは壊れている」、百年経っても「まだFAXは壊れている」と、そう言うだろう。FAXってのは壊れてて当たり前なんだ、お前のところのFAXは壊れてないのかい、そりゃすごい、ところでそれはほんとのFAXかい、へぇへぇそうなんだと、そんな調子のいいことを言って漫画家を滅入らせるのがやつらの生き甲斐なんだから。まったく編集ってのはこんなインチキなことを平気な顔でやる連中なんだ。あいつらの頭の中には「自宅に仕事を持ち込むな」ってことしかないんだよ。千ドル賭けたっていい。

 この担当編集とはいろいろあった。右手の骨を折って、連載を休載したのもこの時期だった。同じミスが続き、机を思いっきり殴ったら、拳の骨が右手の皮膚を突き破ったんだ。まあ今にして思えばずいぶん愚かしいことをしたわけだ。こんなことがあると、だしぬけになんとなくナーバスになる。というか、もともとかなりナーバスな性格なんだよ。このときに「もうサンデーでは駄目だ、小学館では仕事は無理だ」と、そのくらい言ったっていいんじゃないかと僕は思ったんだ。
 でもさ、「金色のガッシュ!!」には楽しみにしている読者がたくさんいる。そうなんだ。僕の描いた漫画を読んで面白かったときに、きちんと面白いと言われたりすると、僕はとても嬉しくなるんだよ。たいていの読者はとてもきちんとしているよ。ほんとの話さ。

 僕は期限をきめて、それまでは「金色のガッシュ!!」を描くことにした。その後にやってきた五代目の担当者もひどいやつで、蓮根なみの間抜けだった。誤植を注意したら逆ギレするようなやつで、とにかく社会人としての常識が無いやつなんだ。嘘いつわりのない話。この手の連中ってさ、僕は世界の果てまでめげちゃうんだ。もうどう仕事をしていいのかわからなくなる。そのうち、電話も会話が終わると、僕にわかるように受話器を叩きつけるようになった。そういうのを耳にすると淋しくて、じっとり落ち込んじゃうんだ。


 ようやくサンデー本誌の連載が終わったと思い、これまで預けてたカラー原稿の返却を求めたら、「数枚、原稿を紛失してしまっています」だなんて、やんなっちゃうよね。漫画の原稿ってのは、漫画雑誌の編集者にとってももっと貴重に扱われていたはずなんだ。それがここまでひどい扱いになっている。まったくどうしてみんな、人の大事なものを台無しにせずにはいられないんだろう。
 僕は小学館の責任者のもとに行ってこう言う。「オーケー、あのカラー原稿を返してくれよな」と。でも原稿を紛失したその編集はたぶん、なんのことだかわけがわからないという声で、こう言う。「カラー原稿って何だよ?」ってさ。で、僕が何をするかというとだね、たぶん二度と小学館での仕事は受けないということを口にすると思うんだ。相手が「どうせ口だけだ」と思ってるのを改めさせるためにね。で、僕が何か辛辣で嫌みなことを口にするとだね、編集長はさっと椅子から立ち上がって、自宅に詰め寄ってくると思うんだ。そして言う、「ファンも待ってるし、またサンデーで連載をお願いしたいね、あーむ?」ってさ。僕は机を右手で叩いて編集長に怒鳴りまくる。本当は右手で叩いちゃだめなんだ。手に怪我したときのことはさっき話したよね。ようするに連中は最後まで僕に対して喧嘩を売っていたわけなんだよ。

 君が漫画制作の現場を知らないものとしていちおう説明しておくと、漫画家と編集者は対等のつきあいをすべきなんだ。仕事仲間だもの。そりゃあときにはうんざりされられることもあるけどさ、そういうことばかりでもない。なんていうか、尊敬ってやつがなきゃだめなことってあると思うんだ。正直な話。原稿を紛失したところで「どうせ紛失したって、原稿料払い直せば事は済むんだろ?」みたいな、そういうことを言う連中とは、なにがあろうと、たとえ死の瀬戸際に立たされたって、一緒に仕事なんかしたくないんだよ。ましてや保証金とかいうわけのわからないお金でうやむやにされるなんてまっぴらだし、僕がそれを受けいれることで、へんてこな前例を作られるくらいなら死んだほうがましってもんだ。それにさ、お金って嫌だよね。どう転んでも結局、気が重くなっちまうだけなんだから。


 なんだか話しすぎたけど、とにかく僕は訴訟を起こそうと心を決めたわけだ。このくらいしないと連中にはわからないのさ。嘘じゃなくて、神にかけてそう思うよ。君がなにを言ったところでさ、あいつらは動かないんだよ。とんでもない話だよね。でもまあともかく、結果はどうであれ僕はさっさと小学館とはお別れする。こんなところでうろうろしていたくなかったからね。ほかの出版社からのオファーならきてないこともない。ほんとだよ。別れ際にはなんて言おうか。「ぐっすり眠れ、うすのろども!」ってのはどうだろう。
posted by 手の鳴る方へ at 01:26| Comment(0) | 時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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