2009年11月27日

『知識・信仰・懐疑』

カール・レーヴィット 『知識・信仰・懐疑』(川原栄峰 訳 岩波書店)


ヨーロッパの精神には互いに矛盾する二つの源流、ギリシャとイスラエルがある。
前者は西洋哲学、後者はキリスト教をしてヨーロッパ精神を支える柱となったけれど、
学問たる哲学と、宗教たるキリスト教との間には、越えがたい深い断絶がある。
断絶があるけど繋がってて、繋がってないという意味で繋がってるとも言えるよね、
まぁ、そこら辺が西洋哲学の分かり難いところかもね、という入門書的な一冊。


懐疑的に哲学するとは求めること、問いつつ探求することをとおして可能な答えの周囲を回ることをいうのであって、啓示された真理を確信することではない。キリスト教的思惟とは信仰を基礎にして考えることであるが、ほんとうに信じている人はけっきょくもはや求めることをしない。その人は神の言葉と神の語りかけとの中に自分を自由にし救済してくれる真理を見いだしているのである。もちろんその人とて、この真理をくりかえし新たに信じなければならないのではあるが。信仰がはじまるところでは、ソクラテス的懐疑的な意味で哲学することはやむ。真理を見いだしてしまえば、探求的な懐疑の求めるというはたらきはやむからである。(P.48)


古代の哲学は懐疑を旨とし、エピステーメーとドクサ、哲学者とソフィストを区別する。
そこで人が本当に哲学的に考えるのなら、聖書に書かれてあることは真理と断定できない。
聖書の神はいるともいないとも言えないし、それ故に絶対視・特別視することもできない。
が、つい最近まで、ヨーロッパの多くの哲学者は、当たり前のようにキリスト教徒でもあった。
無論それは彼らの思想が短慮であったり、キリスト教徒としてインチキであったことを意味しない。
単純に言って、彼らは、キリスト教の教義だけが、人間や世界の摂理の本質に迫っていると、
そう確信していただけの話で、信仰と懐疑の間に横たわる矛盾と格闘しなかったワケでは無い。

アウグスティヌスは真実を求めて哲学の門をくぐり、幻滅して門を出た後に信仰の徒となった。
彼は「私が信じているから神は存在しており、神が存在しているから私はそれを信じる」的な、
この循環的な信仰の基礎付けの存在をはっきりと認めつつ、信仰の知について熱く語っている。

パスカルは数学的な知見を有する物理学者であり、哲学者であり、キリスト教徒でもあった。
彼は『パンセ』の中で、人が本当に理性的なら、理性で掴みきれないことが多々あるのだから、
人は理性を捨てなければ理性的とは言えないと述べ、懐疑の限界と信仰の知を語っている。

キルケゴールは自身を「キリスト教的ソクラテス」と自称し、懐疑と信仰を絶望で繋いだ。
(ちなみにレーヴィットは、「キリスト教的哲学」とかマジであり得ないと述べている。)
キルケゴールの懐疑は古代哲学の懐疑ではなく、キリスト教的、実存的な懐疑なのだけど、
均等化される西洋に抵抗し、一般性を廃する「単独者」として、知を脇にそっと置き、
普遍性と似ているようでその実は全く異なる永遠性、啓示としての真理について思索した。

他にもカントは、哲学の懐疑論と宗教の独断論の中間に活路を見出し、哲学的に処理したし、
ヘーゲルは知識と信仰を、絶対者の中では同一だと言うことで、その対立を弁証法的に解消した。
そして無神論者であるはずのあのサルトルですら、その実存主義はキリスト教的だと言える。
サルトルは、その哲学を実存と共に始めたが、それはキリスト教的な神学から出た考え方である。
ギリシャにおいて実存は自明のことであり、神については主にその本質が問われていたが、
キリスト教は、創造物は神の意志によって無から生み出されたと語り、それに驚愕してみせた。
そして16〜17世紀の天文学などの進展により、創造物の世界と人間との関係が素っ気なくなり、
人間は意味も無くこの宇宙の片隅に放り出された、というような偶然性の経験を経たワケだが、
サルトルの実存主義は、その西洋の経験に答えるかたちで、かつての神の創造説を差し引き、
神の代替として実存を担保にして、決断主義的に、そして効果的に、哲学的なことを語る。
サルトルの発想そのものはトマス・アクィナスと結構似ていると、そうレーヴィットは述べている。


このような良質な本が昭和34年に翻訳され、200円で売られていたことに感動する。
レーヴィットの本は復刊するなりして、もっと手に入りやすくなればイイと思います。
posted by 手の鳴る方へ at 05:47| Comment(0) | 哲学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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