2010年03月18日

杉本彩は加藤智大を語ることができるか

仲正昌樹 『〈リア充〉幻想』(明月堂書店)
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サブタイトルには「真実があるということの思い込み」とある。
2008年の秋葉原無差別殺傷事件をネタに、哲学教授が色々と思うところを喋っている。

「人間力」だとか「個性」だとか「モテ」だとか、その内実が意味不明な言葉はウザい。
雑誌の人生相談が鬱陶しくて中身が無い理由は、この手の観念が基底にあるからだと思う。
また、恋愛のプロと名乗る人物が、恋愛の相談に乗るという構図も、どう考えても意味不明だ。


「恋愛力」っていう話も定番化されていますね。先日たまたまテレビドラマの『流星の絆』を見ていたら、「恋愛経験がゼロなのに、いきなり恋愛の難易度の高い人と付き合った」というようなセリフがあった。ああいう場合の「恋愛の難易度」って何だろうと思うけど、でも、結構そういう言い方が日常的によく使われるようになったとも思いますよね。言いたいことは何となくわからないでもないけど。何だろうな、この「レベル」とか「難易度」みたいな言い方。ロールプレイングみたいな感覚で、これをクリアしたら次はこれ、というような段階的な考え方なのかな。
テレビのバラエティ番組でも、杉本彩とか、三十代、四十代の「経験豊富」そうな女性が出てきて、恋愛も学習して成熟していくことができるんだ、というような話をする。「恋愛の初心者」という言い方はその裏返しですよね。恋愛についての「うまい」「下手」という言い方がテレビを通してだいぶ流行っている。「中年の男のほうが実は魅力がある」とか、そういう言い方は昔からあったけど、「チョイ悪」とかって具体的なイメージではなかったと思います。つまり恋愛にも具体的なテクニックがあって、魔法のアイテムみたいに手に入れて、キャラのグレードをアップしていく、そういうことができるかのように言われている。
(p.163)


恋愛に関しては独自のモノなので、一般化したりテクニックとして扱うのは無理がある。
そもそも「付き合って別れて結婚して離婚した回数が多い」=「恋愛の達人」だしね。
ただ、文中にある杉本彩、また、渡辺淳一、AV俳優の加藤鷹、飯島愛などが語りがちなのは、
恋愛と言うよりもセックスの話で、セックスならもしかするとテクニックとして語り得て、
一般化することもできなくは無さそうで、さらに恋愛とセックスは密接な関係があるワケで、
「性愛」というフレーズで語られると、そこら辺のラインは曖昧模糊としてしまったりもする。
しかもそれと「恋愛至上主義」が重なると、非モテの人間にとって最悪な言説がばら撒かれ、
生き難い世の中にされてしまうのだが、それでも、杉本彩的な存在は評価すべきだとも思う。

例えば、杉本彩の恋愛相談というか性愛相談の中には、結構面白い内容があったりする。
「彼氏がSM系のPCゲームを持っていた。どうすればいい?」という女性からの質問に、
「単なる趣味の問題」「不健全なことを空想の中で楽しめるのが大人ってもの」
「あなたの感覚が一番の問題」「愛してるなら相手の好みを理解しようと努力するべきね」
と、質問者の方を叩く有様。ちなみに括弧内は原文そのまま。某都知事も見習って欲しい。

何が言いたいかって、恋愛だとか性愛だとか性癖だとかが社会的な問題となった場合、
杉本彩的な「恋愛の達人」のご意見と言うのは、意外と公共性があるように見える。
「愛してるなら相手の好みを理解しようと努力するべきね」的な考え方は鬱陶しくもあるけれど、
「恋愛のレベル」「恋愛上手・下手」という意味不明な観念が、意味不明なままに通用して、
杉本彩的な存在の基盤となり、杉本彩的な発言の基盤となり、公共性に関与するのなら、
それはそれで我慢できる話ではないかとも思う。ここで私が公共性云々について語るのは、
上で紹介したSMゲームの話にしても、非モテ、2次元好きな連中からすれば肯定的な話だからだ。
まぁ、杉本彩は2次元ではなくむしろSMを肯定しているんだけど、マイノリティの側に立ち、
性愛に関して寛容を説く延長線上に、非モテや2次元を肯定する言葉も出てきそうな予感もする。
(経験豊富で高レベル、だから寛容になれる、というのは、家父長的な寛容って気もするけど。)


杉本彩は加藤智大を語ることができるか、というのは「サバルタンを語れるか」に似ている。
そもそも非モテは、恋愛至上主義の生み出したモテ幻想の犠牲者として位置づけられる。
ただ、問題の所在が幻想ならば、その幻想の外延を広げることで、救われる連中はいる気がする。
逆に言えば、モテやら個性やら人間力という幻想を打ち砕く、という話にはリアリティが無い。
幻想が打ち砕かれるとしたら、全ての人間がその幻想に加わった場合だけだろう。
とりあえず杉本彩や渡辺淳一には、「ラブプラス」をプレイするあたりから頑張って欲しい。
posted by 手の鳴る方へ at 06:45| Comment(0) | 批評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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