2007年05月05日

電柱礼讃

「あの電柱ってやつは日本の景観に合わないよね。お寺とか、神社と似合わないもの」
「道に沿ってずらーっと並んでてダサい。犬にションベンされてるのがお似合い」
「欧米では電線は地下にあります。電線が空にぶら下がってるなんて考えられない」
「確かにあの電線はよくない。常に視界に入って、日本の風景を台無しにしている」
「電柱には品格が無い。まさに経済優先。戦後民主主義の腐った思想そのものだ」



と、街の景観を気にするのは現代人としての嗜みらしい。

かつて我々の父母は、全身全霊を傾けて経済成長に明け暮れていた。
川に水銀を垂れ流し、海をゴミで埋め立て、山を切り崩して団地とし、
工場は黒煙を吐き出し、光化学スモッグの中、みんなで仲良く生きてきたが、
今はもう21世紀だし、環境って大事だし、それに日本文化って素敵やん?
経済を優先するあまり、そんな素敵な日本の景観が台無しになってるやん?
お金とかそういうのはもういいから、もっと心の豊かさについて考えようよ、
みたいなことを言われると、目から鱗、素直な日本のピープルは真に受けて、
うんうん確かにそうだ、景観って大事だよね、美しい国ニッポン、となるワケで、
じゃあまずは何をぶっ壊せばいいの? 誰が景観の敵なの? 諸悪の根源はどこ?
と考えた末、昨今、真っ先に目に付く、電柱と呼ばれる細長い柱に非難が集まっている。

が、しかし、あんたらそんなこと言ってるけど、現実をよく見ろ。
京都奈良の寺社仏閣、四季折々の自然だけが日本の風景と思うなよアホが。
ショボイ商店街、チープな駅前、さらにチープな裏通り、大量生産の家が立ち並ぶ団地、
味も素っ気もないビジネス街、ネオンだらけの繁華街、見るもの全てが腐ってる場末、
都市を繋ぐ、ツギハギだらけな片側一車線の道路、山をぶち抜く高速道路、
すっかり寂れた地方観光地、コジンマリとして絵にならない農村・漁村、
コンクリで埋め立てられた海岸線、その他諸々のショボイ風景で目白押しじゃボケ。

それを差し置いてなんですか? 寺だ森だ、城だ里だとよく言えたもんです。


「いや、だからそーゆー汚い日本の風景ってダメじゃん、って話でしょ?」
「そういう風景は真の日本の風景ではない。偽りだ。真の日本の風景を取り戻そう!」
「そのためにはまず電柱を撤去すべきだ。地下を通せば何も問題ない」


なるほどそのような声が聞こえてきそうです。
電柱が歴史的建造物と相性の悪いのは認めます。そういう意味では無い方がいいです。
でも、それでもって、まるで電柱をゴミみたいに考えるのは違うんじゃないでしょうか?
景観の絶対悪と考えて単純にデリートするのは思慮が足りないんじゃないでしょうか?

それを踏まえ、私が主張したい点は3つ。


@ 電柱とか、日本中のショボイ風景って、そんなに悪くないし、むしろ素敵だよ。
A 電柱とか、日本中のショボイ風景でも、ちゃんとした日本の風景だよ。
B 日本中の電線を地下に埋めるのにどれだけ金がかかると思ってんだマジで死ね。



基本的にお前らは電柱の機能美について何もわかってない。
電柱のある風景が如何に素晴らしくかけがえの無いものかをご存じない。
だから電柱は不要とか、ウザイとか臭いとか、そんな酷いことがのうのうと言える。
と言うわけで、今から私が電柱の素晴らしさを説明します。説教です。


電柱。

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|_|・∀・*) クスクス
|兎|  ∩ノ
| ̄|―u'


ミニマリスティックなそのフォルムはまさに最も身近なモダニズム建築だ。
街中に連続して立ち並ぶことにより、道路や都市にリズム感が生まれている。
道に沿って彼方にまで続く電線は、まさに現代のカントリーロードと言えよう。
現代のジョン・デンバーは電線に自分の思いを乗せて、「Take Me Home」と歌うだろう。
電線には旅情がある。詩情がある。未だ見ぬ遠方とも繋がってるという安心感がある。

また、有名な劇作家である別役実の劇中には大抵、電柱が立てられている。
それは現代の神聖なモニュメントであり、日常を庇護する聖性に満ちている。
電柱は都市空間の中にありつつ、同時に無意識下にある異物であり、周縁性を帯びている。

さらにジオメトリーに空を区分けする電線の効果も注目に値する。
私達は矩形の空の下に生きた最初の人類だ。電柱がなくなるとその風景も消えてしまう。
「電線のある風景なんていらないから、破壊してもいい」という発想は、
「自然なんていらない」という高度成長期の発想と同じと言わざるを得ない。
自然だけでなく、高度成長期には、実際に、歴史的な建物が多くぶっ壊されている。
ある時代の風景を、ある時代の価値観で叩き潰すのはいかがなものか?

って言うか、空を見上げて電線が無かったら無いで「物足りない」とか思うんだよどーせ!!
「電線のある空が昭和の風景だった」とかシミジミと思うんだよどーせお前らはぁ!!!!!


だから何よりも喫緊なのは電柱の魅力に気付くことだ。
「あれ? 電柱って、ダサいと思ってけど、意外と格好いいかも」
「ねえねえ、2学期になって、電柱って格好よくなってない?」
って感じのイメチェンが必要だ。イメージ戦略だ。

と言うわけで、今回もTREKEARTHの協賛の下、素敵な電柱の写真をかき集めてみました。
海外の電柱ばっかりですが、これを見て電柱の奥深さを理解しやがればいいと思います。


http://www.trekearth.com/gallery/Europe/United_Kingdom/photo9682.htm
http://www.trekearth.com/gallery/Europe/United_Kingdom/photo485794.htm

街中にあると目立たない電柱も、荒野に置けば格好いいオブジェになります。
電柱の意外な一面をご覧いただけたと思います。電柱って格好いいんです。
あと、意外と自然とも調和するんです。自然の包容力って凄いんです。


http://www.trekearth.com/gallery/Asia/China/photo262523.htm
http://www.trekearth.com/gallery/Europe/Slovakia/photo531018.htm

道に沿って続くのも電柱の素敵ポイントです。
電柱が道を外れ、野を越えて山の向こうへと消えていくときでも、
それによって、私達はその山の向こうにも人里があることを知るのです。
幸ひのあるといふ、山の向こうへと電線は伸びておるのであります。
疎外感に満ち満ちた現代社会において、こうして連綿と繋がっている電線は偉大です。


http://www.trekearth.com/gallery/Asia/China/photo520710.htm

道の隅っこにあるという固定観念を打ち砕く、最新の電柱です。
電柱だって変わっているのです。我々の認識も変わるべきではないでしょうか。


http://www.trekearth.com/gallery/Asia/Philippines/photo139587.htm

20世紀後半のアジアの風景ってこんな感じですよね。
美しくないけどパワフル。パワフルな風景って稀有。
というかこいつら何やってるんだろう?


http://www.trekearth.com/gallery/Europe/Lithuania/photo63415.htm

電線のある空も悪くない。って言うかこういう空の何が悪いの?
電柱や電線が景観を悪くするって具体的にはどういうこと?
確かに古都には合わないけど、って言うかそんなこと言ってたら車はどうなの?
って思わなくも無いけど、それはいいとして、古都、もっと正確に言えば、
古都を売りにしている都市以外は今のままでもいいじゃん。



http://www.trekearth.com/gallery/Asia/Japan/photo468964.htm
http://www.trekearth.com/gallery/Asia/Japan/photo387165.htm

同一人物による写真。京都でワザワザこれを写すからニクイ。
繰り返すけど、こういう景色も日本の風景ですからね。
こういうのも悪くないよね、って言ってるの。要するに。
posted by 手の鳴る方へ at 07:09| Comment(3) | 批評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
島田荘司に聞かせてやりたいですね
いや都市のトパーズとか自動車社会学とかの都市論大好きですけど
Posted by 名無し川名無し at 2007年05月05日 13:08
私はミステリ読みじゃなくて、島田荘司さんの本は読んだことが無いんですが、
Amazonの説明を見る限りで、紹介されている『都市のトパーズ』と、
あと『世紀末日本紀行』って本が興味深いですね。

しかし色んな本を書いてますねこの人。
Posted by 手の鳴る方へ at 2007年05月06日 05:03
電線や電柱、鉄塔が無くなるということは、「となりのトトロ」のネコバスのシーンや、エヴァンゲリオンやウルトラマン、ゴジラやガメラに出てくるあの素晴らしい風景が永遠に見られなくなるということですね。なんと悲しいことか。「平成狸合戦ぽんぽこ」に出てきて乱開発をしていた人間が、今度は自然の一部となった人工物を排除しようとしている人間と同一人部ですからね。人間の勝手な都合で自分勝手に変えられる自然を見て、酷い憤りをみせていたあの狸たちの気持ちが分かる気がします。本当に最後のあの泣き叫ぶシーンが、今の気持ちとシンクロしてきます。
Posted by 名無し侍 at 2012年04月30日 23:48
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