2007年09月18日

複製技術時代の終焉 〜『DEPTH』や『初音ミク』〜

ニコニコ動画の『初音ミク』関連の作品がスゲー面白い。
やたらと再生数の多い、“ネギを回す”でお馴染みのLoitumaもイイけど、
個人的にはこの、ポール・モーリアの『オリーブの首飾り』がド壺。





今の時点で、15,000円強で、これだけの品質のものが作れるというのが驚き。
数年後にはもっと簡易で、安価で、高品質のソフトウェア音源が出ていても不思議はない。
が、まぁ、それも待ちきれないようで、既にニコ動の市場ではアホみたいに売れている。
買った連中の全員が、まさかみんな音楽の知識に長けているワケも無いだろうに、
それでもやはり感動して「自分も作ってみたい!」と衝動買いさせたのはスゴイことだ。
衝動買いした連中の中から、実力をつけ、みんなに認められる職人も出てくるだろう。
それは小中高で受けたどんな音楽の授業よりも、人に音楽の喜びを与えている。


初代プレイステーションから96年に発売された『DEPTH』というゲームがある。
そこではイルカを動かして音源を集め、それを組み合わせて曲を作ることができる。
ざっくりと説明すればミュージック・シーケンサーで、曲に合わせてアドリブで、
(それなりのタイミングはあるけど)適当に音を重ねて遊ぶこともできる。
ヘッドホンをしつつ、イルカが色々な、綺麗なステージを遊泳するのを見ながら、
適当に十字キーや○×△□のボタンを押して、自分好みの曲を演奏したりして、
高校時代はよく遊んでいた。多分、人生の中で一番時間を費やしたゲームだと思う。

SCEは今からでもいいから、ネット対応の『DEPTH2』を作るべきだ。
自作の曲をネットに配信したり、世界中の人達の作品を聴くのは楽しいはずだ。
完全に自作だから、余程のことがない限り著作権の問題も無いだろうし。



んで、ここで『初音ミク』と『DEPTH』を並べて何がしたいかと言うと、
音楽の受容の仕方が変化してきているよね、ということが言いたいワケで、
伝統的に言えば、多くの人にとって、音楽とは傾聴するだけのものだったけれど、
ここにきて音楽は、みんなによって作られ、改変されるモノへ姿を変えている。
無名の大衆が音楽をアレンジし、自作し、それを一般に向けて配信している。
『初音ミク』は、現段階では(アニメ、ゲーム関係の)既存曲の複製が中心だが、
それも一通り終わると、今度は既存曲の独特のアレンジが中心となり、
それと同じ頃には、完全オリジナルの曲がアップロードの中心になるだろう。


「作曲・演奏・聴取」がスタンダードな西洋音楽の概念的区分なのだけど、
学校教育では、作曲だけが、作曲家の名前を覚えるとか、そんな感じでお茶を濁している。
これは教育だけでなく、言論としてもそうで、日本のどれだけ多くの知識人が、
作曲に対してきちんと話をできるのかは微妙だ。彼らは「批評家」として、つまり、
作曲する作曲家、演奏する演奏家と鼎立する、聴取するプロの批評家として、
「J-POPじゃなくてベートーベンとか聴けよ。クラシック最高!」とか言うのだけど、
彼らの音楽の喜びは、『初音ミク』で『もってけ! セーラーふく』をアレンジして、
ニコ動にアップロードし、みんなで楽しんでいる連中と比べ、それほど優れているようには見えない。

音楽といえば西洋クラシックで、オーディトリウムで耳を澄まし、最高の楽器で、
一流の演奏家が奏でるモーツァルトだ、という主張は教養主義的で、デカダンスの極みだ。
例えば、音楽や作曲家の知識を山ほど抱え、偉そうに喋る音楽評論家がそうだ。



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増田聡は『聴衆をつくる』(青土社)の最終章「複製技術の時代の終焉」の中で、
ジャック・アタリを参考にしつつ、著作権という神話が跋扈する「複製音楽の時代」、
つまり現代に続いて、個々人が自分のために作曲する、「作曲」の時代を予感している。
「複製技術の時代の終焉」というのはいささかショッキングなタイトルだが、
『初音ミク』にはその可能性が垣間見える。それは複製というよりも、作曲のメディアだ。
音楽とは聴くものである以上に、なによりもまず作るものになるかもしれないし、
これからの音楽の喜びとは、名盤や名演奏を鑑賞することにあるのではなく、
自分で曲を作り、それをみんなと共有することにあるのかもしれない。

そのとき、音楽市場や著作権、ヒットチャートはどうなるのだろうか。
増田聡によれば、作曲の時代になっても、そういう要素は残り続けるだろうと言う。
ただ、音楽は詩のような無料の芸術となり、新しい言説を切り拓くだろうとも述べている。
posted by 手の鳴る方へ at 08:08| Comment(0) | 批評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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